地域で子育てをする楽しさを知る“みんなの居場所”「国分寺市プレイステーション」

ひと・くらし

【冒険遊び場の会】武藤陽子さん

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0歳から17歳までが集まり、冒険や豊かな遊びが体験できる場所

JR中央線「国分寺駅」から北へ延びる西武国分寺線。隣の小平市(こだいらし)を通って東村山市(ひがしむらやまし)までを結ぶ途中にある「恋ヶ窪駅(こいがくぼえき)」からほど近い場所に「国分寺市プレイステーション」はあります。
ここは地域の子どもたちの“遊び場”であると同時に子育て支援の拠点でもあり、さらには学校などに居場所を見出せない中高生の拠り所としても機能する公的施設です。運営しているのは「認定NPO法人 冒険遊び場の会」。

認定NPO法人 冒険遊び場の会が国分寺市から指定管理を受けて運営している国分寺市プレイステーション

社会教育施設としての歴史は古く、設立は約40年前。前身は1981年(昭和56年)に京都府の財団法人が立ち上げた“冒険遊び場”でした。子どもたちが自由に思いきり遊ぶことができる環境を作る“プレイリーダー(スタッフ)”が常駐する無料の遊び場でしたが、財政難を理由に1998年(平成10年)2月に撤退を決定。しかし、約17年が経過していたその場所は既に地域になくてはならない存在になっていたため、「どうにか存続ができないか」と、利用者や市内の遊び場を豊かにしようと活動をしてきた団体、PTA、プレイリーダーなどが結束して市民団体「冒険遊び場の会」を作り、新たな管理・運営が始まりました。そのうちの一人が、現在、国分寺市プレイステーションを運営する認定NPO法人 冒険遊び場の会の代表理事を務める武藤陽子さんです。

自身も冒険遊び場の利用者であり、この場所に救われた一人である武藤陽子さん

武藤さんたちの切実な願いと働きかけで1999年(平成11年)からは行政の支援が入り、2000年(平成12年)には市民団体がNPO法人となると同時に、国分寺市がプレイステーション条例を作ったことで、正式な市の施設としての運営がスタート。施設から遠い子どもたちにも対応するため、それまでの冒険遊び場での活動だけではなく、市内の公園に遊び場を点在させるなど子育て支援などを目的とした多彩な活動を行ってきました。その結果、2014年(平成26年)7月には現在の形となる認定NPO法人として東京都から認定を受け、引き続き公益性の高い活動を積極的に行っています。

拠点を国分寺市西元町から現在の場所に移った2020年(令和2年)。読書や工作、子育て相談などができる2階建ての建物と、土・水・木・草・虫・火など自然と触れあえる広場がある

移転と同時に2階に開設された親子ひろば「BOUKENどんどこ」。主に未就学児の親子が遊ぶスペースとして利用

今も昔も国分寺で子育てをする人たちや子どもたちにとって、なくてはならない居場所である国分寺市プレイステーション。実際にどのような活動をしている場所なのか?気になるアレコレを武藤さんにお伺いしました。

ビジョンに掲げるのは「子どもたちに、たっぷりとゆたかな遊びを」

大学を卒業後、武蔵野市で保育士として勤めていた武藤陽子さん。ご自身にお子さんが生まれたのを機に退職し、出会ったのが冒険遊び場でした。

武藤さん:「もともと子どもの遊びや、どのように子どもを育てるかについて興味があったのですが、子どもが生まれて国分寺に引っ越してきた時、最初は公園デビュー(※)が怖くて公園に行けませんでした。既に出来上がっているグループに入っていくことに抵抗があったのです。しかし、勇気を持って公園へ通い出すと徐々に仲間ができ、毎日会うようになると、同じ考えを持った親子たちと知り合うことができ、より遊びやすくなるための保育サークルをみんなで作りました。そんな時に出会ったのが、冒険遊び場でした」

(※)母親が近所の公園に子どもと共に出かけ、そこに集まってくる他の母子連れと関係を築き仲間入りを果たすこと

入口に掲示されている国分寺市プレイステーションのイラストマップ

保育サークルの仲間たちと共に冒険遊び場を利用し、自然環境の中で子どもを遊ばせることや子どもの成長に欠かせない自由な遊びができる環境の必要性を自らの体験で強く感じていたからこそ、この場所の存続のために奮闘しました。そして、現在の場所に移転する際には、より子どもたちのための施設になるようにさまざまな意見を取り入れて建物を作り、外と中が連携できる動線や仕掛けを用意し、親子で遊べる場所を加えることで居場所の良さを整えていきました。

親子ひろばBOUKENどんどこには地域で助け合いながら子育てができるようにとリサイクルコーナーを設置

武藤さん:「生まれたばかりの赤ちゃんと、お父さん・お母さんが集まって地域に仲間ができるようにと、火曜日には“赤ちゃんタイム”を設けました。でもここは0歳から17歳までが自由に遊べる場所なので、同時に不登校の子がやってくることもあります。授業中にジッと座っていられない子や人との遊び方が分からない子など状況はさまざまですが、学校ではやりたいことが叶わなくても、ここでは自由にすることができるので、そういった子たちの拠り所になっています。中には自分の思い通りにならない時に手が出てしまう子もいて、幼児のお母さんが驚いたりもしますが、そこは私たちがケアをしますし、もしも自分の子が成長して学校へ行けなくなっても、ここがあることを知ることで安心することもあります。0歳から17歳までが同じ場所にいるのは、とても良いことだと思います」

助産師会など他の団体とも連携を図り、イベント情報などを掲示している

学校などの集団行動には馴染めない子どもでも、自主性に任せることで食材を持参して火起こしをして自炊をし、自分で遊具を作る楽しさを覚え、起伏ある庭で穴を掘り砂に触れて遊ぶなど、驚くほどの成長を見せると話す武藤さん。ここは子どもが自分の力で自由に遊びを作っていけるように配慮された“遊びの基地”。プレイリーダーをはじめとするスタッフや地域の方々が見守り、冒険・安心・充電・くつろぎの場として運営されています。

プレイリーダーとして子どもたちに寄り添い「子どもと一緒に成長したい」と話すユウジさん

敷地内の一角を“利用契約”した小学生が自分の力で作り上げた基地。

武藤さん:「2年前にトレーラーハウスを活用して駄菓子屋“だがプレ”を作りました。ここは駄菓子を売ることが目的ではなく仕事の楽しみを知る場所。子どもたちが30分働くことで30円分の通貨がもらえる仕組みになっています。また、土日に開店するカフェ“どーにっち”は子育てに疲れた保護者の方や気持ちを休めたい来場者の皆さんのためのものです。と同時に、カフェを目的に訪れた家族連れの方にも、外で泥だらけになって遊んでいる子に触発される機会となっています。異なる世代やさまざまな目的の人が交わり、多くの人たちに遊びの楽しさに気づいてもらう相乗効果を狙っています」

駄菓子屋“だがプレ”では店番、売り物の整理、片付けなどをすると通貨“プレ”がもらえる。お金がなくても働くことで駄菓子の購入が可能

「靴が汚れるから」と遊び出す子どもを止めてしまう親御さんを見て用意された長靴

同様の施設は平日昼だけ、月に数日だけなど限られた運営が多い中、国分寺市プレイステーションは週に5~6日も開放し、夕方17:30~20:00には13歳から17歳を対象とした「夕暮れカフェ」を無料で開いています。

中高生がフラッと立ち寄れる場所として告知している夕暮れカフェ

武藤さん:「子ども食堂は全国的に増えていますが、大人が作って子どもに提供するスタイルや月1回開催という事例が多い中、ここでは開場日には毎日開放し、地域から寄付される食材なども使って子どもたちと一緒に夕食を作って食べています。大学生アルバイトなども含め3名のスタッフで運営していますが、大学生もコロナの影響で周りの人たちとの触れあいが希薄だった世代です。ここで我々スタッフや中高生と触れ合うことでコミュニケーションの機会になり、彼らの成長にもつながっていると感じています」

コロナ禍で人との触れ合いが減った時期に始めた“お手紙ポスト”。国分寺市プレイステーションの外と国分寺市内10カ所の公園に設置され今でも子どもたちとのやりとりが続いている

市内に点在する遊び場を活用して国分寺での子育てや遊びを楽しんでほしい

国分寺市プレイステーションが家から遠く、なかなか行くことができないという親子や子どもたちのため、武藤さんたちは市内10カ所の公園を活用した遊びの場所「こくぶんじ青空ひろば」も実施。これはおもちゃを用意してみんなで遊ぶ時間や放課後の子どもの居場所作りのほか、助産師やカウンセラーを派遣することで雑談の中から悩みを軽減させるなど子育て世代や子どもたちを見守る環境を整えることを目的としています。

国分寺市プレイステーションに置かれたおもちゃの数々

武藤さん:「周りの市町村には大きな子育て支援施設が建てられていますが、国分寺にはなかったので、その代わりにどうしようかと市民団体と行政とが集まって話し合いをし、小さな拠点をいくつも作ったことでそれが市内の子育てを細かくフォローできる環境になったのだと思います。まわりからは“国分寺には歩いて行ける場所にいろいろあるのが良い”と言っていただけています」

現在、認定NPO法人 冒険遊び場の会には50名弱のスタッフがいますが、個性豊かでさまざまなスタッフがいることで楽しさが生まれる反面、一番大変なのは研修だと武藤さんは話します。

国分寺プレイステーションのスタッフたち。地域に住むお母さんたちを中心に集まっている

武藤さん:「安全管理の徹底はしていますが、厳しい規律の中で子どもと向き合うのは違うと思っていますし、ここで一番大切にしているのは“基本は遊び場”ということ。座学やグループワークを重ねてスタッフ研修をしながらソーシャルワーカーの方々とも連携を図り、地域にとって良い“遊び場”であることを大切に、これからも運営していきます」

国分寺市プレイステーション1階にある漫画コーナー。他にも卓球台が置かれた部屋や談話室などがある

2025年2月には国分寺市プレイステーション近くに子ども食堂や部屋貸しなどの運営を視野に入れた「なみき牧場BOUKENたんま」という地域の集いの場を作るなど、常に新たな試みを続けている認定NPO法人 冒険遊び場の会。国分寺へ遊びに行く際には、こうした地域活動にも触れてみてはいかがでしょうか。

スポット等詳細情報

国分寺市プレイステーション(こくぶんじしプレイステーション

住所東京都国分寺市東戸倉2-28-4
電話042-323-8550
駐車場なし
URL https://www.boukenasobibanokai.or.jp/index.html
アクセス西武国分寺線「恋ヶ窪駅」徒歩8分

なみき牧場「BOUKENたんま」(なみきぼくじょう「ぼうけんたんま」)

住所 東京都国分寺市並木町2-11-5
電話 042-202-0017
駐車場 :3
URLhttps://www.instagram.com/namikibokujo/
アクセス 西武国分寺線「鷹の台駅」徒歩17分

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