【秋散歩】歴史ある庭園と森を巡り、武蔵野台地の豊かな自然と国分寺崖線を知る

目次
カサカサ落ち葉を踏みしめて、秋の「色」と「音」を楽しむ散策へ
別荘地だったからこそ、駅からすぐの場所に趣きの異なる庭園が残っている東京・国分寺。国分寺崖線(こくぶんじがいせん)という地形を活かした庭園をはじめ、散策しやすい遊歩道が整備された公園や、“もみじ”の名前が付けられた公園など、行く先々でイチョウの鮮やかな黄色や燃えるような朱色に染まる紅葉など、秋ならではの美しい景色を堪能できます。葉の色が緑から黄色や赤色へと移り変わる早期から目の前一面が鮮やかな木々に覆われる頃、冬の訪れと共に色褪せヒラヒラと舞う落葉が美しい瞬間…と、その時々で異なる秋の色が楽しめる国分寺の秋の散策モデルコースを紹介します。
武蔵野の雑木林を活かしたモミジの名所「殿ケ谷戸庭園」
国分寺ならではの自然と歴史、日本の伝統技能を秋の景色と共に楽しめるスポットのひとつが、国分寺崖線と呼ばれる土地の高低差を活かして造られた「殿ヶ谷戸庭園(とのがやとていえん)」。園内には約200本のイロハモミジが植えられていることから紅葉の名所としても知られ、例年11月下旬から12月上旬に見頃を迎えます。

園内で見られる植物は約200種類。イロハモミジは約200本、モッコクは約300本が自生
この場所はもともと三菱合資会社の社員で後に南満州鉄道副総裁から貴族院議員にもなった明治・大正時代の実業家、江口定條(えぐちさだえ)の別荘地。現在の庭園は「随宜園(ずいぎえん)」と命名された当時の面影を残しつつ、現在見られるのは1929年(昭和4年)に三菱の創業者・岩崎彌太郎の孫にあたる岩崎彦彌太(いわさきひこやた)が買い取り整備した庭園。彦彌太は主屋前に広がる芝生と崖線下方の湧水及び園地を結び、数寄屋造り風の茶室「紅葉亭(こうようてい)」を新築するなどして和洋折衷の回遊式庭園を造ったのです。
- 一番の高台にある紅葉亭は最大30名まで収容可能
- 紅葉亭から見た園内の様子。眼下には関東ローム層に浸透した雨水が地下水となり国分寺崖線から湧き出す水が流れ込む次郎弁天池がある

東京都名湧水57選のひとつに選ばれている園内の湧水源。水温は年間を通して15~18℃

主屋を利用した資料館。彦彌太が持ち主だった頃には主に食堂として使われ、今は庭園の歴史や建築の変遷に関するパネルを展示
ここは駅からすぐの場所にも関わらず、国分寺崖線が育む武蔵野の山野草を身近に感じられる貴重な場所。しかし、昭和40年代の駅前地域を商業地化する開発計画により存続の危機に面したことも。その時、庭園を守るための住民運動が起こり、1974年(昭和49年)に東京都が買い取り都立公園として整備。2011年(平成23年)9月には国指定名勝にもなったことで、広く知られるようになりました。

園内の高低差は約10m。モミジを見上げたり見下ろしたり…さまざまな角度で楽しめる

「竹の小経」には日本庭園には珍しい孟宗竹(もうちくそう)があり、緑の中で色づくイロハモミジが映える
また、技能職員による年2回の「伝統技能見学会」も注目したいイベント。「雪吊り」と「霜除け」は11月中旬に施される冬の風物詩で、希望者は間近で職人の技術を観覧できます。そして、初夏に行われる「松のみどり摘み」は松の樹形をコンパクトに保つために行うもの。いずれも人の手で管理される庭園で昔から見られてきた季節ならではの風景です。

雪が積もり木の枝が折れるのを防ぐために補強する雪吊り。兼六園式・南部式・北部式の3種類の様式があり、ここで見られるのは南部式

寒さに弱い主に蘇鉄などの植物の防寒対策として施される霜除けの藁ぼっち。ここでは実際に植物を覆うのではなく伝統技能継承のために実施

足元を見れば黄色、赤色、朱色、紫色と少しずつ異なるモミジの葉に気づく
秋はヒガンバナ、ハギ、ホトトギスに始まり、サザンカやモミジなどが園内を彩る殿ヶ谷戸庭園。11月から12月にかけては職員がガイド役となり園内解説の後に周辺散策を案内するツアーなども行われています。また、秋以外も冬景色の次郎弁天池や新緑や藤棚が見ごろを迎える初夏など1年を通して様々な武蔵野の山野草を楽しめるので、季節を変えて訪れるのもおすすめです。
スポット等詳細情報
野川の源流や手つかずの自然、武蔵野の姿を残す「協創の森」
秋の国分寺を楽しむなら、公開のタイミングをチェックして訪れたい「協創の森」の庭園もおすすめ。国分寺崖線内に位置する広大な森と池を有する株式会社日立製作所 研究開発グループ 国分寺サイト(協創の森)内にある庭園で、春と秋の年2回限定で一般公開している穴場スポットです。

庭園内にある深さ約150㎝の大池から国分寺駅方面を見た景色
1942年(昭和17年)に株式会社日立製作所中央研究所として創設された株式会社日立製作所 研究開発グループ 国分寺サイトは国内に4拠点ある研究開発拠点の中で最大規模を誇り、約1,000人が研究者として日夜研究に励んでいる場所(2024年12月現在)。その敷地内の庭園は、創業社長・小平浪平氏の「よい立木は切らずによけて建てよ」という意志から、もともとあった木々を残して武蔵野の自然が保護されていて、豊かな環境に身を置く研究者たちの心を和ませ、科学する心を育む役割を担っているそうです。

研究所側から正門を見た返仁橋(へんじんばし)。両側には“手つかずの森”が広がる
緑地部分は大きく3つに区分されていて、正門を入ってまず目にするのは一つ目のエリア“手つかずの森”。シラカシやケヤキ、ムクノキなど人の立ち入りが少ない在来の木々が生い茂る森には樹高25mを越すシラカシなど都内では珍しい大きさに育った樹木も。猛禽類など樹林性の鳥類の生息に適していて、どこからともなく野鳥の鳴き声が聞こえてくるエリアです。
園内の池を生息地とするハクチョウが自由に歩き回っている姿に出会えるかも

湧水環境の保全に役立つ竹やコナラ、イヌシデなどが見られる斜面樹林のエリア
続いて現れるのは約10,000㎡、深さ150cmの大池を含む湧水環境を保つ雑木林=水源涵養林(すいげんかんようりん)エリア。国分寺崖線から湧き出た水でできた広大な大池には年間を通してさまざまな野鳥が訪れ、マガモやハクチョウ、カルガモやオシドリなどの水鳥を見ることができます。

冬にはカモ類をはじめとする水鳥が越冬する貴重な場所である大池

大池に流れ込む湧水が見える湧水地
国分寺崖線から湧き出す複数の湧水が存在する園内は、野川の起点となる貴重な源頭地。また、周辺の緑地による雨水の浸透機能によって安定している湧水が大池をつくり、大池から野川に流れ、野川から多摩川や東京湾へとつながる、国分寺崖線を特徴づけるシンボル的な存在として、ぜひ見ておきたいポイントでもあります。

大池の水位を調整する水門

園内の樹木には名前と特徴が書かれていて見ながら散策するのも楽しい

2024年(令和6年)は11月下旬から12月中旬に見頃を迎えたモミジ
3つ目のエリアは、かつての雑木林を引き継ぐ平地林。アカマツ、クヌギ、コナラ、ヒノキをはじめ、ヒマラヤスギの大木なども残っています。
このように、約22ha、東京ドーム約5個分の敷地面積の約半分にも及ぶ広大な場所に森が広がる株式会社日立製作所 研究開発グループ 国分寺サイト。これだけ都市化が進んだ現在も、かつて雑木林や田園地帯だった武蔵野の地に生息していた約120種類・27,000本の樹木が残され、40種類を超える野鳥が観察できる都内では類をみない自然環境が残る貴重な場所となっています。2023年度に環境省が認定する「自然共生サイト」にも認定されました。
頭上に、目の前に、色とりどりの樹木や花が広がる景色を楽しめる
80年以上継続的に管理され守られてきた森に身を置いて深呼吸。ゆっくり、のんびりと国分寺の秋に触れる散策に出かけてみては
※2025年(令和7年)の公開日は未定です。
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